生成AIの台頭により、企業変革のあり方はどう変わるのか。アビームコンサルティングの山田貴博CEOと岩井かおりCPOに、成果を実現するコンサルティングの価値と、人・組織・カルチャーを競争力に変える人的資本経営について聞いた。

AIが進化するほど、人と組織の価値は高まる──。
一見すると逆説的だが、アビームコンサルティング株式会社 代表取締役社長 CEOの山田貴博氏は、「AIによって知識や分析力だけでは競争優位を築きにくい時代だからこそ、企業の持続的な競争力は変革を実現できる人と組織に宿る」と語る。
AIや地政学リスクなどによって企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、企業価値を生み出す源泉は何か。そして、経営戦略と人的資本経営をどう一体で捉え、企業変革を実現していくべきなのか。
アビームが目指すのは、答えを示すコンサルティングではなく、クライアントとともに変革を実装し、その成果に責任を持つ「Real Partner®」だ。山田氏と同社Chief People Officer(CPO)の岩井かおり氏に、その思想と2030年に向けたビジョンを聞いた。
AI時代に問われるのは、変革を実現する組織の力──AIや地政学リスク、少子高齢化などを背景に、企業を取り巻く経営環境は大きく変化しています。今、企業経営では何が起きているのでしょうか。山田貴博(以下、山田):この4月から経営体制を変更した企業が多く、経営層の方々とお会いする機会が増えています。そこでほぼ必ずと言っていいほど議論になるのが、企業経営における「AIネイティブへの変革」です。
ただし、現在の経営環境の変化は、AIの普及だけによるものではありません。地政学リスク、少子高齢化、テクノロジーの急速な進歩が複合的に重なり、社会や市場が変化するサイクルそのものが短くなっています。AIは、そうした構造変化を象徴する事象の一つだと捉えています。
企業経営の難易度は、確実に高まっています。地政学リスクを踏まえたサプライチェーンの再編、人口動態の変化による人材不足、サステナビリティ経営への対応、AIを前提とした事業や業務の再設計。企業は今、自社が何によって価値を生み出す企業なのか、改めて問い直す必要に迫られています。
──そうした環境変化のなかで、企業の競争優位はどこから生まれると考えていますか。山田:AIの進化によって、知識や分析力だけでは競争優位を築きにくくなっています。だからこそ、これから企業間の差は、AIを導入しているかどうかではなく、AIを活用して変革を実現できる人材と組織を持っているかどうかで決まります。
もちろん、AI時代になって初めて経営戦略と人的資本経営が重要になったわけではありません。しかし、変化のスピードが増し、戦略の前提が絶えず変わる時代だからこそ、経営戦略と人材・組織戦略を一体で考える重要性は、これまで以上に高まっています。
山田貴博(やまだ・たかひろ)氏/アビームコンサルティング 代表取締役社長 CEO:外資系コンサルティングファームでの日本、アメリカ勤務を経て、アビームコンサルティング入社。 製造業、運輸、金融、総合商社、通信、エネルギーを中心に幅広い 業界で戦略策定、経営・業務・IT改革などを担ったのち、金融・社会インフ ラビジネスユニット長に就任。2016年取締役 、2020年代表取締役副社長 COOを経て、2023年4月より現職。 撮影:中山実華──コンサルティングファームに求められる役割や価値はどう変わるのでしょうか。
山田:コンサルティングが生み出す価値の軸は、「実装」から、さらにその先にある「成果を実現する力」へ移行していると考えています。単に戦略を策定し、業務改革を実行し、システムを導入するだけでは十分ではありません。その結果として、企業価値が向上したのか、事業成長につながったのか、新たな競争優位を獲得できたのかが問われる時代です。
重要なのは、成果、すなわち“Outcome”に責任を持つことです。アウトプットを提供して終わるのではなく、それを経営の意思決定や現場のアクションにつなげ、企業価値の向上というOutcomeまでコミットする。アビームは、こうした「成果コミット型のコンサルティング」への転換を目指しています。
岩井かおり(以下、岩井): 企業変革は、正しい戦略だけでは進みません。最後は、人を巻き込みながら戦略を実装し、組織を動かせるリーダーがいるかどうかです。
私たちアビームは、戦略を描くだけではなく、変革を担う人と組織と向き合いながら、その実現までコミットする存在でありたいと思っています。それが、アビームが掲げる「Real Partner®」 *の姿です。
*クライアントの変革を実現する“真のパートナー”として、成果創出に強くコミットする価値観を表したアビームコンサルティングの経営理念。
企業価値を左右するのは、人と組織である──AIが「答え」を導き出せる時代に、人にしか担えない企業変革の価値とは何でしょうか。
山田:現段階のLLM(大規模言語モデル)をベースとしたAIが出す「答え」は、その仕組み上、既存の情報から確率論的に正しいと考えられる言葉をつないで導き出されたものに過ぎません。私自身もAIを用いて文章を作ることがありますが、必ず自分の言葉に置き換えるようにしています。
何を問い、何を加え、何を削るか。そして、何が足りないのかを見極める。その意思決定は、最終的に人間がするものです。人が自ら判断し、言葉を選び、相手に届けることの価値はなくなりません。
そう考えると、企業変革における「ありたい姿」も、確率論的な正しさからは生まれるものではないでしょう。過去の成功体験の延長線上で正解を探すのではなく、自分たちは何を強みとし、何を目指し、何を重視するのかを決める“再定義”が必要だからです。
岩井:AIは共感しているような応答はできますが、相手の状況や感情に真に寄り添い、変化への不安や葛藤まで受け止めることはできません。
変革には、勇気と覚悟がいるものです。だからこそ、相手の成功を本気で願い、その挑戦に伴走する姿勢が欠かせないと思っています。
そのためには、相手の事業や組織、人への深いリスペクトが必要です。相手の成功を自分ごととして捉え、長期的な視点で向き合い続ける姿勢こそ、人間にしか生み出せない価値なのではないでしょうか。
岩井かおり(いわい・かおり)氏/アビームコンサルティング Executive officer CPO(Chief People Officer) People & Culture Group Leader:2000年にアビームコンサルティングに入社。コンサルタントとして多様な業種において、経営基盤構築を目的とした業務改革、基幹システム導入、海外展開、運用・保守まで、幅広いプロジェクトに関わる。その後、プロジェクト責任者としてコンサルティング業務に携わりながら、2020年4月より、Smart Work、Diversity & Inclusion、Well-Beingの3つのイニシアチブからなるABeam Business Athlete®(ワークスタイル変革)を統括。現在は、Chief People Officerとして人材戦略(採用・育成・組織開発)と経営・事業戦略との連動や、従業員のエンゲージメント向上や組織文化の醸成、強化を担う。撮影:中山実華山田:たとえば、毎朝立ち寄るコーヒーショップで、馴染みの店員が「今日、少し顔色が悪いですね、大丈夫ですか」と声をかけてくれる。人間は、表情や声のトーン、その場の空気など、さまざまな情報から相手の状態を感じ取り、かける言葉を選ぶことができます。
変革の現場も同じです。クライアントの表情や場の空気、言葉の裏にある文脈を丁寧に読み取りながら、その企業にとって何が最善なのかを共に考え、意思決定を支えていく。そうした積み重ねが信頼関係を築き、変革を前に進める力になります。
AIは答えを示すことはできます。しかし、その答えを現実の変革につなげるには、クライアントの置かれた状況や組織の文脈を深く理解し、その時々で最適な判断を重ねることが欠かせません。
だからこそ、AI時代におけるコンサルティングファームの価値は、「正しい答えを提示すること」ではなく、クライアントの意思決定を支え、信頼を築きながら変革を実現することにあると考えています。
──まさにその点で、AI時代においては「人」の価値が高まるのですね。
山田:2030年に向けて企業価値を左右する最大の要素は、人と組織が変革を実現する力だと考えています。AIやテクノロジーは誰もが活用できる時代になっていく。そこで差を生むのは、共感力や文脈を読み解く力を持ち、AIを意思決定や行動につなげられる「人」と、その力を結集できる「組織」です。経営戦略と人・組織のあり方は、もはや別々に考えることはできません。
そして、人と組織の力を最大限に引き出す土台となるのが、企業のカルチャーです。カルチャーは重要な経営資産ですが、掲げているだけでは競争力にはなりません。その意味や価値を理解し、日々の意思決定や行動を通じて体現する人がいて初めて、企業価値につながります。だから私は、人と組織が持つ変革実現力こそ、企業価値を生み出す最も重要な経営資産だと考えています。
どれほど深みや歴史のあるカルチャーがあっても、現在のクライアントや社員との関係性に即して、その意味を自分の言葉で伝え、日々の行動で体現する人がいなければ、組織の力にはなりません。
人と組織の力は、一度築けば完成するものではありません。社会やクライアントの変化に合わせて、学び、挑戦し、磨き続けることで、持続的な競争力へとつながっていくのです。
岩井:アビームでは創業以来、「クライアントの成長」と「人の成長」は切り離せないという考え方を大切にしてきました。その思想を、現在は「As the Client grows, People grow.」という言葉で表しています。
ここでいう「People」は、アビームの社員だけではありません。クライアント企業で変革を担う一人ひとりも含んでいます。
私たちは、人材を単なるコストではなく、未来の価値を生み出す資本だと考えています。クライアント企業が変革を通じて成長し、そのプロセスに関わったクライアント社員やアビーム社員が新たな経験を通じて成長する。そして成長した人材が次の変革をリードし、さらなる価値創出につなげていく。
この成長の循環こそが、持続的な企業価値の創出につながると考えています。だからこそ私たちは、クライアントとともに変革を実現し、人や組織の可能性を引き出せるリーダーが育ち続ける環境をつくっていきます。
専門性をオーケストレートする人材が、変革を導く──「変革を実現する人材」とはどういう人でしょうか。
岩井: 顧客の経営アジェンダから出発し、多様な専門家を巻き込みながら成果を実現できる人です。
これからの時代、専門性だけでは十分ではありません。戦略、業務、テクノロジー、人材など、それぞれの専門性をつなぎ、異なる立場の人たちが同じゴールに向かえるよう働きかける力が求められます。
私たちは、その力を「共創力」と呼んでいます。自ら答えを出す人ではなく、多様な知見を引き出し、クライアントやチームとともに最適な答えをつくり上げていく。そのような人材が、これからの変革を担うリーダーになると考えています。
山田:AIは知識を学習できます。しかし、人と人との信頼関係を築き、産業、経営、戦略、業務、人・組織、テクノロジーなどの専門性を結び付け、組織として価値を生み出す力までは学習できません。
企業の競争優位は、個人の専門性だけから生まれるものではありません。多様な専門性をオーケストレートし、変革や成果の実現へと導く組織能力こそが、これから最も模倣されにくい競争力になると考えています。
そのため、私たちは一人ひとりの専門性を高めるだけでなく、それぞれの力を掛け合わせ、クライアントとともに価値を生み出せる組織づくりを重視しています。それが、アビームが目指す変革実現力の源泉です。
「アビームが価値創出力・変革実現力・共創力という3つの力を統合して発揮できるのも、そうした人材の集まりがあってこそ」と、山田氏は語る。撮影:中山実華カルチャーは、掲げるものではなく体現するもの──ここまで、人と組織が競争力になるというお話がありました。その考え方を、アビーム自身はどのようにカルチャーや組織づくりに落とし込んでいるのでしょうか。
岩井:私たち自身も、クライアントに変革を提案するだけではなく、自ら変わり続ける組織でありたいと考えています。そのために創業以来、カルチャーを磨き続けてきました。
私は、カルチャーは掲げるだけで根付くものではないと思っています。組織として「こうありたい」という意思を持ち、一人ひとりが日々の意思決定や行動を通じて体現し続けることで、初めてカルチャーになっていきます。どのような判断をするのか。どのようにクライアントと向き合うのか。どのように仲間と協働するのか。そうした一つひとつの行動の積み重ねが、組織のカルチャーをつくっていくのです。
企業変革がうまくいかない理由の多くは、戦略そのものではなく、それを実行できる組織や文化が育っていないことにあるのではないでしょうか。成果にこだわり続ける文化、学び続ける文化、協働する文化、そしてクライアント価値を最優先にする文化。そうしたカルチャーは、変革の結果ではなく、変革を実現するための土台なのです。
山田:私自身、尊敬するある経営者から、「朝礼暮改ではなく、朝礼朝改であるべき」と教えられたことがあります。環境が激しく変化するなかでは、朝に示した方針であっても、前提が変わったと分かれば、その朝のうちに修正すべきだという意味です。
もちろん、目指すゴールや、その背景にある考え方まで簡単に変えるわけではありません。大切な軸は一貫させながらも、より良い方法があると分かれば、立場や過去の判断にとらわれずに変えていく。それはブレではなく、変革を実現するために必要な柔軟性です。
アビームでも、一人ひとりが決められた正解を待つのではなく、環境の変化を捉え、自ら問いを立て、より良い判断や行動へアップデートしていくことを大切にしています。変化を受け入れるだけでなく、自ら変化をつくる人が活躍できる組織でありたいと考えています。
もう一つ、私たちはクライアントに変革を提案する前に、まず自ら変革に挑み、実践することを重視しています。自分たちで挑戦し、成果だけでなく、うまくいかなかったことや変革の難しさも経験する。その上で提案するからこそ、言葉に説得力が生まれ、クライアントの不安や葛藤にも深く向き合うことができます。
変革を外から語るだけではなく、自らも当事者として挑み続ける。そこで得た学びをクライアントの変革に還元し、さらに次の挑戦につなげていく。そうした実践と学習の循環こそが、アビームのカルチャーであり、働く一人ひとりの成長にもつながっていると考えています。
価値観を行動へ。「ABeam 5C Way」に込めた思い──企業が成長し、組織が大きくなるほど、カルチャーを維持することは難しくなります。アビームでは、その課題にどのように向き合ったのでしょうか。
岩井:私たちが向き合ったのは、創業以来受け継いできた価値観を、これからもグローバル全体で体現し続けられるかという課題でした。
アビームはここ数年で大きく成長し、日本発・アジア発のコンサルティングファームとしてグローバルで事業を展開する会社へと変わってきました。サステナブルな成長や国・組織を越えた協働を実現するためには、世界中の社員が共通の価値観で判断し、行動できるカルチャーが不可欠です。
そうした背景から、私たちは創業以来大切にしてきた価値観を、今の時代やクライアントとの関係性、そして成長戦略に合わせて改めて見つめ直すことにしました。
「ABeam 5C Way」は、新しい価値観をつくったものではありません。私たちが掲げる「Real Partner®」という経営理念を、これからも実現し続けるために、一人ひとりが日々どのように判断し、行動すべきかを、これまで以上に明確にしたものです。
その再定義は、日本本社が価値観を決めて世界へ展開するものではありませんでした。プロジェクトの立ち上げ段階から海外拠点のメンバーも参画し、グローバル全体で議論を重ねながら進めています。国や文化が違っても、世界中の社員が同じ価値観で意思決定し、行動できる共通言語にしたいと考えたからです。
ABeam 5C Way提供:アビームコンサルティング株式会社山田:私たちが目指しているのは、ABeam 5C Wayを会社のスローガンにすることではありません。一人ひとりが、自分自身の経験や言葉で語れる価値観にしていくことです。
価値観を説明するだけではなく、自分たちが実際に経験した変革として語れるようになったとき、クライアントとの対話も変わっていくと思っています。
私たちはこれまでも、クライアントに提案する変革をまず自ら実践する「Client Zero」の姿勢を大切にしてきました。ABeam 5C Wayも、その考え方を一人ひとりの日々の判断や行動に、さらに根づかせていくための取り組みです。
自ら実践しているからこそ、変革の難しさも、その先にある価値も、自分たちの言葉で語ることができる。その積み重ねがReal Partner®としての信頼につながり、私たち自身の競争力になっていくと考えています。
社会から最も信頼される変革パートナーへ──ここまでのお話を踏まえて、2030年にアビームは社会にどのような価値を提供する存在でありたいと考えていますか。
山田:2030年に向けて、コンサルティングファームには、戦略を示すだけでなく、変革を実装し、成果の実現まで担うことが、これまで以上に求められると考えています。
私たちは、日本にヘッドクオーターを置くグローバルファームとして、日本企業やアジア市場への深い理解と、BearingPoint社との共創によるグローバルネットワークの双方を生かしながら、新しいコンサルティングのモデルをつくっていきます。
戦略か実装か、経営か現場か、グローバルかローカルか、欧米かアジアか。そうした二項対立のどちらかを選ぶのではなく、それぞれの強みを統合し、クライアントにとって最適な変革を実現する。それが、私たちの目指す姿です。
岩井:その実現を支えるのは、やはり人です。AIによって知識や情報へのアクセスは大きく変わります。しかし、変革を前に進めるのは、人を巻き込み、多様な専門性をつなぎ、組織を動かせるリーダーです。だからこそ私たちは、専門性だけではなく、共創力やリーダーシップを育てることに投資し続けます。
山田:私たちが目指しているのは、単に規模の大きなファームではありません。クライアントの変革を実現し、人と組織の可能性を企業価値へとつなげることで、社会から最も信頼される変革パートナーになることです。それが、アビームが描く2030年の姿です。

※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。
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