「世界とつながり、音楽の未来を灯す」というコンセプトを掲げる【MUSIC AWARDS JAPAN】(以下【MAJ】)。果たして【MAJ】を通して、日本の音楽は世界とつながることができるのだろうか。本稿では、グローバルの音楽データをリアルタイムで分析できるプラットフォームLUMINATE「CONNECT」を用い、日本アーティストが【MAJ】で受賞した、もしくはパフォーマンスを披露した楽曲のストリーミング再生回数(オーディオ+ビデオ)を分析し、【MAJ】が国内および海外に与えた影響を考察する。
過去の記事では、【MAJ 2025】の受賞楽曲/パフォーマンス楽曲の増加率の平均を計算した。同じ方法で今回の【MAJ 2026】も計算し、結果は以下通りとなった。

本稿では、過去の記事で用いた各楽曲の増加率の平均ではなく、【MAJ】の効果をより明らかにするため各楽曲のそれぞれの増加率、そして対象楽曲全体の合計増加数や増加率に着眼した。分析方法は次の通りである。【MAJ】開催直後の3日間の再生回数を前週の同一曜日3日間と比べ、その変化率を求める。これを過去1年間の各週の変動と照らし合わせ、開催週の変化が「自然な揺れ幅の範囲か、明らかに通常時と異なるか」を判定した。
※判定には、過去1年間のデータをもとに【MAJ】開催週の変化率が突出しているかを測る統計量「ロバストZスコア(rZ)」を用いた。rZが2を超える場合(=慣例上偶然ではないとみなすことができる)に「変化率が統計的に突出している(=有意)」と判断した。rZが大きいほど、その変化は通常時との差が著しいと考えられる。なお、分析の精度を確保するため、【MAJ】開催前6週以内にリリースされた楽曲、および再生数が少なく統計的判断に堪えない楽曲、国/地域は分析結果から除外している。
※分析対象は日本人アーティストによる、楽曲賞を受賞した楽曲、もしくはパフォーマンスを披露した楽曲に限る。ただし、【MAJ 2025】の分析ではオープニングで使用されたYELLOW MAGIC ORCHESTRA「RYDEEN」も含む。
まず、昨年5月に開催された初回の【MAJ 2025】を分析する。授賞式翌週となる5月21日~23日の各楽曲の再生回数を、前週同一曜日の5月14日~16日と比較した。
対象楽曲(計34曲)の合計再生数は、日本国内で0.8%増にとどまり、rZ値は0.54だった。過去1年間にこの増加率を上回る週は16週もあり、【MAJ 2025】が対象楽曲全体に与えた影響はほぼなかったと言える。
ただし、個別の楽曲では、パフォーマンスが話題となったちゃんみな「ハレンチ」(+39.3%、rZ=7.44)や「美人」(+36.2%、rZ=6.22)や、オープニング・ショーに使用されたYELLOW MAGIC ORCHESTRA「RYDEEN」(+34.5%、rZ=6.36)など、一部の楽曲には日本国内において明確な増加が見られた。一方で、これらの伸びは他の受賞/パフォーマンス楽曲の自然減少と相殺され、対象楽曲全体を押し上げるには至らなかった。

日本国外では、合計再生数が有意に増加した国/地域はなかった。個別の楽曲が散発的に伸びることはあっても、他の楽曲やアーティストとの連動は見られない。初回の【MAJ 2025】が再生回数を押し上げる効果は、前述の話題楽曲に偏り、他の楽曲にまで及ばなかったことを示している。
では、2回目の開催となった【MAJ 2026】は、その影響力を拡大できただろうか。同様の方法で、2026年6月13日~15日の受賞および披露楽曲(計32曲)の再生回数を、前週同一曜日の6月6日~8日と比較した。
日本国内において、対象楽曲全体は11.3%の増加(rZ=2.36)を記録した。過去1年間でこの増加率を超えた週は8週にとどまることから、開催週に通常時を上回る明確な増加があったと判断できる。初回(rZ=0.54)では検出されなかった全体への効果が、2回目で初めて統計的に確認できた点は、【MAJ】にとって重要な前進である。個別に見ても、対象楽曲はすべて再生回数が伸び、過半数の楽曲で有意な増加が見られた。増加数では<最優秀楽曲賞>など計4部門で最優秀賞を受賞し、かつパフォーマンスが披露されたサカナクション「怪獣」がもっとも大きく、藤井 風「Prema」、米津玄師「IRIS OUT」が続いており、いずれも統計的に有意だった。【MAJ 2025】で記録した増加が話題楽曲に集中していたのに対して、【MAJ 2026】においては授賞式で取り上げられた全ての楽曲に多かれ少なかれ効果があったと言えるだろう。


日本国外に目を向けると、香港(+13.9%、rZ=2.16)、台湾(+12.2%、rZ=2.14)、そしてタイ(+10.5%、rZ=2.2)では、対象楽曲全体の再生回数が統計的に有意な増加を示した。一方で、日本を除く全世界の合計で見ると増加は通常変動の範囲内にとどまり、日本音楽のシェアが相対的に高い韓国や、市場規模が大きいアメリカなど地域においても対象楽曲全体の変化が見られなかった。ここで強調したいのは、これはあくまでも「全楽曲の合計」で、【MAJ 2026】が海外までリーチできなかったということを示しているわけではない。後述の通り、【MAJ 2026】の海外への波及には、いくつか異なる構造が見られる。

ここで個別の楽曲に視点を移すと、【MAJ 2026】の波及の構造がより鮮明になる。
最も広く世界に伝播したのは、サカナクション「怪獣」だった。<最優秀楽曲賞>をはじめ複数の主要部門を制し、まさに【MAJ 2026】を象徴する一曲となった「怪獣」は、日本国内(+19%、rZ=3.35)にとどまらず、海外22の国・地域で統計的に有意な増加を記録した。その範囲は、東アジア、東南アジアにとどまらず、北米、欧州、中南米にまで及んだ。ベトナムでの増加率が最も高く(+227.3%、rZ=15.63)、ペルー(+100%、rZ=4.69)、チリ(+92%、rZ=12.2)、フィリピン(+86.8%、rZ=12.53)、香港(+74%、rZ=14.94)が続いている。

これは、【MAJ 2026】という授賞式の「最も主要な結果=どの曲が頂点に立ったのか」が、文化圏を越えて世界中のリスナーに届いたことを物語っている。授賞式をリアルタイムで視聴していなくとも、「日本の音楽賞で“怪獣”という曲が最大の話題となった」という結果は、ニュースやプレイリスト、SNSを通じて世界へ伝わり、聴かれたと言える。
藤井 風「Prema」も、「怪獣」に次いで広く伝播し(海外14の国/地域で有意)、“世界に広がった”第二の楽曲となった。その広がり方には、藤井 風というアーティストの特性が色濃く表れている。増加率が上位の地域を見ると、伸びの中核は東アジアであり、台湾(+125%、rZ=17.85)、香港(+102%、rZ=13.46)、韓国(+91%、rZ =6.93)と、いずれも+90%を超える急増を見せた。そしてマレーシア(+82.9%、rZ=7.22)、インド(+54.0%、rZ=4.85)が続いている。これは、藤井 風がアジアで築いてきた強固なファンベースが、【MAJ】の話題を起点に一斉に反応した結果と解釈できる。実際、「Prema」の海外での増加は、その大半をアジアが占めている。加えて、規模は小さいもののアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアといった英語圏、そしてドイツでも有意な増加が見られた。彼が昨年行った欧米ツアーでの築き始めたファンベースも反応したと考えられるだろう。

また、授賞式で藤井 風がサム・スミスと交流する場面が話題を呼んだことを踏まえると、こうした英語圏での反応は、授賞式での国際的な交流が一定の波及効果を持ち得る可能性を示唆する。一方、話題となった披露楽曲「My Guy」は当時リリースされていなかったものの、サム・スミスの全楽曲の日本国内における再生回数が41.6%増(rZ=11.57)という通常より極めて顕著な増加を記録し、日本のリスナーも、【MAJ】を通してサム・スミスというアーティストへの関心をさらに深めたと言えるだろう。なお、<最優秀アジア楽曲賞>にノミネートされた楽曲(計21曲)のなか、既に世界的に再生回数が飽和状態に近いHUNTR/X「Golden」を除くと、日本における合計再生数が19.5%増(rZ=3.75)と記録しており、個別に見ても21曲のうち18曲の再生回数が増加した。【MAJ】を機に日本のリスナーがアジアの音楽を発見したと考えられる。
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